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スペイン語文法 番外編 (第一編)

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Monólogo de un pasota == Serie II -16 ==
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『馬耳東風』 第二編 (スペインの政経社編) 第16話

『スペインの陪審裁判制度』 (y その3)

  前々号では陪審員資格について述べたが、今号は、その選出された陪審員がどのような種類の陪審裁判に参加するのか、つまり、裁判権の対象範囲はどうなっているのかなどについてみていこうと思う。

  現在のスペインでは、陪審裁判は基本的に刑事裁判に限られている。その中身はというと、1995年5月22日に公布された組織法第5号で規定されている犯罪の種類は、殺人罪、住居侵入罪、財産侵害罪、死体遺棄罪、脅迫罪、侮辱罪、名誉毀損、放火(森林放火なども含む)罪、汚職罪等々や、具体的な罪名が上げられていないものの、性犯罪もその対象になっている。また、公金横領罪、脱税、公共料金等の不法徴収などの罪で、本組織法で現在定義はされてはいるものの、法的な、あるいは、会計上の専門的知識や証拠などを判定しなければならない犯罪、いわゆる複雑性を伴う犯罪等は、いわゆる一般人が判断を下すこの陪審裁判には適当でないという理由で、今後除外されるべき犯罪と考えられている。

  上記にも示したように、まだこの制度が再開されてから10年にも満たないことから、まだまだ模索状態にあることが分かる。さらに、マスコミが、『驚くべき無罪判決』、あるいは『根拠のなき無罪判決』であるとか、『無効評決や矛盾した評決等々の訴訟手続き』等について、センセーショナルに報道を繰り返し、この陪審裁判についての問題指摘が尽きない状況である。

  そんなことから、現在スペインでは、『陪審裁判の回避』と呼ばれる現象も起きている。つまり、弁護士側が、可能な限り(特に、脅迫罪などの場合に)、罪の解釈を変え、この制度の対象範囲外の容疑罪状に修正し、陪審裁判を回避するという問題である。平たく言えば、陪審制度の範疇に入らない罪状が適応可能な場合には、できるだけそちらの方を選択し、陪審員の評決による裁判ではなく、自分の依頼主を、いわゆる一般的なプロの裁判官が判断する通常の裁判で評決させようと言うわけである。無論、こうした動きは、弁護士側のみでなく、むしろ、被告側が陪審裁判を回避する傾向にある。

  では、陪審裁判では、いわゆるプロのジュリストはいないのか?といえば、そんなことはない。当然、裁判長が法廷の責任者として存在している。評決に関しては、陪審員が多数決(日本人が馴染みのある米国の陪審裁判は全員一致)で『無罪か・有罪か』が決定されるわけだ。では裁判長は具体的に何をするのかといえば、裁判の進行を統制し、裁判が公平性を維持するように努めることの他に、陪審員に対し事実認定の説明を行ったり、陪審員への評決書の差し戻し権もある。尚、同権利は、陪審裁判組織法第63条の1-d)において裁判長に与えられた権利で、評決が無効となる可能性があるような矛盾が評決書に見受けられた場合や、特に、陪審員が公判とは無関係な事実や評価について述べている場合などにその行使権利が発生する。

  ただ問題なのは、これもまだ10年の歴史もないということが原因であろうと思われるが、法のプロである裁判長が、事実認定を明文化する際や、被告・原告双方の陳述によって係争中の問題点が明白な場合、陪審員に対しその事実がいかにももう立証されたものとするような発言を行ったり、無罪、あるいは、情状酌量を行うように裁判長自身が誘導するようなことはあってはならないのだが、こうしたことは、現実問題として一部で生じているようである。つまりは、一部の裁判長の間で、同組織法の第54条で定められている、陪審員に事実認定の説明を行う際に、陪審員たちが『素人』であることから、刑法や刑事訴訟法の短期教育コース、つまり、法学レクチャーを陪審員たちに行わねば、彼らが正確な法的判断ができないと解釈している裁判官がいるのも事実のようだ。無論、本来、裁判官は、決して被告人や証人、あるいは専門家に対する尋問などに活発に参加し、法廷で主導的立場に立ってはいけないわけだ。

  さて、前述の『多数決』について少々補足しておくと、無罪評決をするには、正規陪審員9名内の5人が『無罪』を主張すれば無罪の判決が下されるが、有罪判決には7名が『有罪』を主張する必要があり、数字だけを見れば、『有罪』になるよりも『無罪』になる可能性の方が大きい。これが、マスコミが騒ぐ『驚くべき無罪判決』や『根拠なき無罪判決』につながり易い所以であろう。にもかかわらず、被告側がこの陪審法廷を嫌うのは、やはり、無罪になる可能性が多いとはいえ『法の素人に裁かれたくない』という心理が働くのだろう。

  このように、まだまだスペインの陪審裁判制度には大きな問題が山積みしているが、これも、すべては時間(経験)が解決するだろう。因みに、同組織法は、法律発布半年後の1995年11月16日にはすでに2回目の改正がなされている。

  まだまだこの陪審裁判に関して述べるべき事はあるが、あまりこの問題ばかりを取り上げていては皆様からご要望の多い他のテーマを扱えないので、とりあえず、このテーマは今回で終了することにする。(文責:ancla)

  以上は、本塾のメールマガジン『e-yakuニュースNo.31(2003年05月末号発行)』に掲載されたものです
  

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