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スペイン語文法 番外編 (第一編)

馬耳東風 (第二編) スペインの慣用句 (第三編) マヤ暦のページ


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Monólogo de un pasota == Serie III -10- ==
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第三編 『スペインの慣用句』 (その十)

     まず、前号は休んでしまいお詫び申し上げたい。さて、今号の慣用句の主体には自然界のものを集めてみようと思う

1. 『dejar a la luna de Valencia』・『quedarse a la luna de Valencia』

     「バレンシアの月に放置する」?「バレンシアの月に残る」??これではいったい何のことかさっぱりわからない。まあ、だからこそ慣用句なのだが...。《Valencia》というと、200万以上の人口(県全体人口)を有するスペイン第3位の都市バレンシアが最も有名だが、どうやらこの慣用句のバレンシアは、ベネズエラのバレンシア(100万人強の3番目に大きい都市)のようだ

     地理の勉強はさておき、この慣用句の由来には諸説があり、そのポイントは当然《luna》だ。一つはこの《luna》というのが海上の悪天候のために船が避難する《bahía=湾》を意味しているという。もう一つは、家々の門戸が閉まってしまい、行き所のなくなった人々が集まる場所が《luna》の形をしていたとしている。3つ目は、2番目の状況に似ているが、夜になって町に入れなくなった人々のために町の入口に置かれたベンチが三日月の形をしていたからだというが、どの説も確実ではない。ともあれ、なんとなく「置いてきぼりにされてしまった」といった情景は浮かんできた。朝方までそんな場所に置き去りにされれば、ベッドの上でゆったりと眠れない上に、心細くもなりガックリもくる。したがって、この慣用句の意味は、『がっかりする・がっかりさせられる』、そしてさらにこれを発展させて『あきらめる』となる。町の外に取り残されれば、がっかりするだけでなく、あきらめて朝を待つしか他に方法はないわけだ

     それにしても、なぜベネズエラのバレンシアなのかまではよくわからない。因みに、この町は海抜479 mでベネズエラの中でも高地に位置しているので、少なくとも1番目の説とは符合しない。読者の中でこのあたりの真意をご存じの方がおいでになれば是非お教え願いたい

     例) Tanta ilusión que tenías, te quedas a la luna de Valencia.
          (あなんに楽しみにしてたのに、万事休すだな)

2. 『estar en la luna』・『vivir en la luna』

     「月にいる」?「月に住む」?この慣用句はアポロ11号のアームストロング船長とオルドリン飛行士が作ったのだろうか?それとも、月のウサギさんたちのことを言っているのだろうか?無論そうではない。今でこそ月は我々人類にとってそれほど神秘的な存在ではなくなってしまったが、昔は様々な形で、また、世界中で「神」として崇められたり、「ロマン」の象徴でもあった。つまり、月はあくまでも謎の存在だったわけで、この慣用句の意味もそんなところを反映し、『現実離れしている・うわのそらである』となる

     例) Ese, seguro que no sabe nada de nada porque está siempre en la luna.
          (やつは絶対にな〜んにも知らないぜ。だって、いつも上の空だからな)

3. 『estar de mala luna』

     悪い月があったり良い月があったりするのか?いやそうではない。この慣用句の動詞は《estar》であって《ser》ではないから、一時的な何かを指しているわけだ。つまり、良い状態であったり悪い月の状態であったりするわけだ。月はその性格上、日々その姿を変える。いや、性格には我々の地球からそのように見えるわけだ。そんなことから、一時的な精神錯乱というか、気まぐれを指す《lunático/a》なる言葉も存在する。尚、性格的にこの手の連中はこの世に山ほどいることから、性格そのものを指す場合には《ser lunático/a》となり《ser》動詞で表現される。結論として、この慣用句の意味は『機嫌が悪い』となる

     例) Procura no acercarte mucho a ella que está de mala luna.
          (機嫌が悪いから彼女には近づかないようにしろよ)

4. 『pedir la luna』

     直訳からすると、「月を要求する」となるが、またなんと厚かましいというか無茶なことを要求する者もいるものだ。確かにこの手の輩はどこにでもいるものだ。自分ではできない、あるいは、何もしないくせに要求だけしっかりとする輩もいる。いや、別に愚痴をこぼしているのではなく、この慣用句は、まさにそのものズバリ。『不可能なことを願う・要求する』なのだ

     例) Si transigimos, acabarán pidiéndonos la luna.
           (今ここで譲歩すれば、今後、やっこさんたち、無い物ねだりまでするぞ)

5. 『arrimarse al sol que más calienta』

     自然界の母とも言うべき月を扱った慣用句に4つも続けて「付き」合わせてしまったので、今度は、自然界の父である太陽にお出まし願おうとおもうが、これはけっして『pedir la luna』ではないだろう。《arrimar》なる動詞はあまり耳慣れないとは思うが、《acercar》の同義語で、『近づける』ことだ。したがって、例のように直訳をしてみると、「最も暖めてくれる太陽に近づく」となる。はは〜ん、なるほど、と思った方も多いのではないだろうか。「旅人のマントを太陽と風のどちらが先に脱がせるか」という話を彷彿とさせるような慣用句だ。しかし、残念ながらまったく関係がない。確かに、寒いときに暖かい方に行きたいのは人情だ。しかし、寒くもないのに常に暖かいところへ行きたがる人もいる。そう、その通り。日本語の慣用句では『寄らば大樹の陰』と言うのがあるが、けっして「命を預ける」わけではなく、あくまでも強い方に寄っていく、いわば人生の処世術を心得た世渡り上手と言えば、実に聞こえが良いが、悪く言えば、「虎の威を借る狐」的な性格をもった、鼻持ちならない卑怯な状況が浮かび上がってくる。尚、動詞は《arrimar》以外にも、《ponerse》や《estar》などに代えても使用できるので、スペイン語の初心者から上級者まで使える便利な慣用句だ

     例) Ese político ha sabido ponerse al sol que más calienta. Así, pronto tendrá un cargo importante en el gobierno.
          (あの政治家は日当たりのいい場所がどこかを良く承知している。よって、そのうちに政府の要職に着くだろう)

     これは、例えば、野党だった政党が選挙に勝つことを素早く見極め、そちらに鞍替えした政治家がいて、その人のことについて語ったものだ

6. 『no dejar a alguien ni a sol ni a sombra』

     闘牛場に行くと《sombra》と《sol》とに席が分かれていて、双方の入場料の差には相当な違いがある。灼熱の太陽がギラギラと地表を照らすスペインならではの慣習だ。ほとんど「天国」と「地獄」ほどの差が生じることになるからだが、この慣用句を見ると、その「両極端のどこにも(おまえを)放置しない」と言っているわけで、そうなるともうほとんど居場所もなく、気の休まることさえないわけだ。「天国」にも「地獄」にもいられないわけだが、実際には「地獄」にいるような状況に置かれてしまうことになる。つまり、この慣用句の意味は、『片時も離さない・つきまとう』という、今流行?の「ストーカー」が使用するような慣用句だ。スペインには昔からストーカーがいたのかも知れない...

     例-1) Mi hijo no me deja ni a sol ni a sombra.
          (うちの息子は放っておけないのざあます)

     注:一応、次の例文と対比するためにかなり良い意味の方に訳してみたが、実際、このお母さんが息子の世話をするのが本当にいやだと思っての発言なら、全く同じ表現にもかかわらず、「うちの息子は片時も私から放れてくれなくて」となることにも注目していただきたい

     例-2) No sé cómo he podido librarme de ese individuo que no me dejaba ni a sol ni a sombra.
          (もう、私、どうして逃げてこられたのか分からないのだけれど、ずっとあの人物につきまとわれてたのよ)

     今回はこの辺で終わりにするが、自然界にはまだまだ様々なものがあるので、次回では、月と太陽以外の自然界をキーワードにした慣用句を探ってみよう。読者諸氏からの質問や意見をお待ちしている。(文責:ancla)

    以上は、本塾のメールマガジン『e-yakuニュースNo.27号(2003年01月末発行)』に掲載されたものです

 

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