望郷の念 重ねて歌う

 「タン、タッ、タッ、タン」。手拍子を打ちながら、歌い方のコツを笑顔で伝える。ソプラノ歌手の谷めぐみさん=東京都在住=は自らが専門にするスペイン歌曲を都内の音楽教室で指導している
教室は東京や埼玉など首都圏でほぼ毎日。忙しい中で、準備を進めているのが、8月1日に故郷の後志管内余市町で初めて開くコンサートだ
小樽潮陵高校では音楽部に所属し、合唱に明け暮れた。京都の大学で声楽を専攻。ドイツ歌曲を専門に学んだ
卒業後、スペイン歌曲に出会った。切なさ、もの悲しさの中に、懐かしい東洋的な雰囲気があった。「運命的な出会いでした」。スペイン・バルセロナの高等音楽院に一年間、留学。翌1985年から毎年、スペイン歌曲の発表会を開いている
余市を離れて約三十年になる。しかし、「故郷の景色を忘れたことはなかった」という
2007年に父親が亡くなり、そのころからスペイン歌曲を歌うたび、留学中にバルセロナで毎日見ていた地中海と、余市の砂浜の向こうに広がる日本海が重なり合って目に浮かぶようになった
「故郷でスペイン歌曲の魅力を伝えたい」。里帰りコンサートが決まると、余市の知人や高校時代の仲間が協力を申し出てくれた
「望郷の念を歌に重ねて披露したい。お世話になった故郷の方に一人でも多く会場に足を運んでもらえれば」。ステージでは自分のすべてを出し切るつもりだ
(杉野英介)


この記事は「北海道新聞2009年6月5日付朝刊」に掲載されたものです

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