谷 めぐみ の 部 屋
 


 

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Hola Barccelona
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スペイン歌曲の歌い手

「谷 めぐみ」の歌修行 "Hola! バルセロナ" - その01 -

¡Hola! バルセロナ(1)

ある国との出会い、ある街との出会い。その妙は人生のどこに潜んでいるのだろう。このたび思いがけない機会をいただき、バルセロナでの想い出を綴らせていただくことになった。無謀な留学を無事終えることが出来たのは、Gracias a Diosまさに神様のご守護と良き人々の支えのおかげである。深い感謝とともに懐かしい日々を思い起こしてみたい

渡西前、スペインの歌との出会いは偶然だった。大学卒業後、友人のギタリストに誘われ、彼のコンサートで黄金世紀の歌曲やガルシア・ロルカ採譜によるスペイン古謡など数曲を歌ったのである。それまでスペインという国に特別な憧れがあったわけではない。小学校の学芸会でフラメンコ風のお遊戯「花のセニョリータ」を踊ったこと、テレビで西郷輝彦が歌う「星のフラメンコ」がとても格好良く見えたこと。スペインがらみで心に浮かぶのはこの二つの記憶くらいである。ギタリストに歌詞の読み方と大まかな意味を教えてもらい、私は練習を始めた。これが楽しかった。コンサートは大成功、そして本番が終わっても私のスペイン熱は冷めなかった。数少ない楽譜を探し、見つかると片っ端から歌ってみる。初めて歌うのにどこか懐かしい、不思議な感覚だった

しかし一応歌えるとはいえ、発音はいい加減なものである。しかも大半の古い歌曲の楽譜にはAnónimo(作者不詳)と記されていたが、私はこれをずっとアノニモさんが作曲したのだと思い込んでいた。よくもまぁ一人でこんなに沢山作曲できたものだと…

留学が決まった私は、大慌てで語学学校に通い始めた。レベルは初級。しかしどうも私以外は全員スペイン語歴のある方ばかりらしい。何度目かの授業で「extrañoを使った作文」という課題が出た。辞書を見ると「奇妙な」とあるが、よく分からない。指名された私は苦し紛れにEs extraño que estoy aquíと言ってみた。「私のようなレベルの者がここにいるのは奇妙です」と、ユーモアを込めたつもりだったのだが、赤いスーツを着た先生は「この文章は変です」と冷たく言い放った。「どこがどう変なのですか?」と質問しても「変、とにかく変なのです」と繰り返すばかり。不出来な私とっては、それこそmuy extrañoであった。以来、忙しさを理由にクラスに通わなくなった。そして三ヵ月後、そのまま出発の日を迎えてしまった

(つづく)
  以上は、日西翻訳研究塾のメールマガジン『塾maga
2008年07&08月合併号(No.93&94)』に掲載されたものです