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Hola Barccelona
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スペイン歌曲の歌い手
「谷 めぐみ」の歌修行 "Hola! バルセロナ"
- その02 -
¡Hola! バルセロナ(2)
成田空港午後10時。夜の闇の中をKLM機は離陸した。眼下の灯りがどんどん遠くなる。「あぁ、これでしばらく日本ともお別れ…」と、普通なら感傷にひたるところだが、とにかく私は疲れていた
正式にバルセロナ行きが決まったのが三ヶ月前。二ヶ月前に「さよならコンサート」を開き、三週間前に仕事を辞めた。大勢の生徒の引き継ぎ、長年住み慣れた部屋を引き払うための荷造り、急な話に驚く人たちへのご挨拶、その合間を縫ってのパスポート申請。海外用の大きなスーツケースを買いに行く、などという用事もあった。そんなこんなを必死で果たし、今やっとシートに座り込んでいる。夏休みを利用してマジョルカ島へ出かけるT先生のグループが、私をバルセロナまで連れていってくれることになっていた。早くから計画を立てていた彼らは狭いエコノミークラスに詰め込まれていたが、後からオマケで参加した私は、幸か不幸かエコノミーに空きが無く、ひとり悠然と?ビジネスクラスである
向うで師事する先生は決まっている。住む場所も一応見つかっている。とりあえず到着までは何もしなくてよいのだ、そう思った途端、猛烈な睡魔に襲われ、私は眠りこけていた。アムステルダムで乗り換え、またすぐに熟睡。一体どれだけ時間が過ぎたのだろう。優雅な旅を楽しむどころか、ただ毛布を被って眠り呆けているうちにバルセロナに着いてしまった
朝なのか昼なのか、よく分からない。T先生一行の後ろについてとぼとぼと歩いていくと、いきなり英語ではない外国語、つまりスペイン語のアナウンスが耳に飛び込んできた。単語と単語の切れ目も分からない。ダダダダダとまるで機関銃を撃つような勢いである。ハッとした。分かっていた、もっと勉強しておくべきだった。荷造りより、買い物より、とにかくスペイン語をやっておくべきだったのだ、と後悔しても、時すでに遅し、である。放り出したスペイン語クラスの情景がちらっと脳裏をかすめた。寝ぼけた頭が急に冴えてきた。おそるおそる空港のロビーを見回してみる。陽の光がひどくまぶしかった。「そうだ、私はスペインに来たのだ」初めて実感が湧いた。同時に、ヒタヒタと不安が押し寄せてきた
(つづく)
以上は、日西翻訳研究塾のメールマガジン『塾maga2008年09月号(No.95)』に掲載されたものです |
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