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Hola Barccelona
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スペイン歌曲の歌い手
「谷 めぐみ」の歌修行 "Hola! バルセロナ"
- その05 -
¡Hola! バルセロナ(05)
翌朝、朝食のパンとコーヒーを恵んでもらったあと、檀氏の奥さんマリア・ドローレスの買い出しについて行くことになった。彼女は日本語が達者である。意思の疎通に問題はないらしい。行き先はバルセロナ最大のサン・ジュゼップ市場。これが、すごい迫力である。アーケードがかかった巨大な建物の中にあふれる肉、魚、野菜、果物、ナッツ、丸いチーズ等々、色とりどりの食料品。天上からぶら下がった丸裸?!の鶏や子豚に度肝を抜かれる。貫禄たっぷりの魚屋のおばさんは、あのとんでもなく大きなハサミで何を切るのだろう?広い空間を埋め尽くす人また人…。売り手も買い手も、誰ひとり黙っている人間はいない。口角泡を飛ばし、何ごとか叫んでいる(ように見えた)
「メグミさん、欲しいものを言いなさい」呆気にとられている私に、マリア・ドローレスが言った。欲しいものと言われても、ただただ驚くだけで何が欲しいのかも分からない。ふと目の前を見るとハムがあった。「じゃぁ、このハムを」と私、「何グラム?」とマリア・ドローレス。日本ではハムをグラム単位でなど買ったことがない。「エ…」と口ごもっている私を無視して、彼女はさっさと300グラムを購入。同じように「エ…」とモタモタしている間にピーマン1キロが私の持っていた袋に放り込まれ、「ミ、ミルク…」とやっとの思いで希望を伝えて1リットル入り紙パックを買ってもらった。最後に彼女は「羊の脳みそ」なるものを買った。「壇はこれが嫌い。でも私は大好き。今日は彼がいないから、ひとりでお昼に食べるの。ウフフ、楽しみ」マリア・ドローレスの目がキラリと光った。当時、三百六十五日洋食でも平気な私だったが、彼女の怪しい微笑みを見た瞬間、思わず自分が農耕民族であることを実感した
くたくたに疲れて部屋に戻り、ハムとピーマンと牛乳をベッドの上に並べてみた。そこで初めてパンが無いことに気がついた。「パンを買いたいので午後に買い物に行くなら連れて行ってほしい」とマリア・ドローレスに言うと「午後にパン屋に行ってもパンは無い」とのこと。パン屋にパンが無いとはどういうこと?と、質問する気力も出てこなかった。かくして私はその日、昼も夜も、牛乳を飲みながらハムとピーマンの炒めものを食べた。夕食時には、同じく間借り人の日本人男性が「コーヒー飲みますか?」とやってきて、自分のインスタントコーヒーをご馳走してくれた。あぁ、一杯のコーヒーのありがたさ!「明日こそはパンとコーヒーを買うぞ」私は決意を固めたのだった
(つづく)
以上は、日西翻訳研究塾のメールマガジン『塾maga2008年12月号(No.98)』に掲載されたものです |
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