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Hola Barccelona
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スペイン歌曲の歌い手
「谷 めぐみ」の歌修行 "Hola! バルセロナ"
- その15 -
¡Hola! バルセロナ(15)
「歌える曲を持って一度自宅へ来るように」M先生からご指示があった。歌える曲と言われても…。ある程度の曲数を自分なりに準備はしていた。が、あくまでも自分なりに、である。本当のところ、私のスペイン歌曲はスペイン人に通用するのだろうか…。急に怖くなってきた
明日がレッスンという日、絶妙のタイミングで日本から荷物が届いた。「スペインの先生へのお土産に」と、友人のひとりが自分の知り合いの陶芸家にわざわざ制作を依頼してくれた、大ぶりの九谷焼の飾り皿である。心強い援軍(援皿?)登場。「キミ、本気?ほんまに行く気?」私の突然の留学話に、友人達は驚き、呆れ、案じ、励まし、最後には、送別ドライブ旅行に連れ出してくれた。皆の顔が浮かび、何だかシンミリしてしまう
翌日、M先生のお宅にうかがった。私のピソから歩いて20分もかからない。先生と奥様、そして父上と母上が笑顔で迎えてくださった。九谷焼の大皿に驚き、「これは波の模様です」などという私のにわか仕込みの説明を神妙に聞いてくださる
レッスン室の壁にはヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスとM先生とのコンサートの写真が飾られていた。そうだ…。ドサクサに紛れて大事なことを忘れていた。M先生は、世界的名ソプラノ、ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスの伴奏者なのだ
大学時代、「世界有名ソプラノ・アリア集」というLPレコードで初めてヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスの歌を聴いた。ビルギット・ニルソン、マリア・カラス、レナータ・スコットetc。豪華絢爛、華麗なるアリア・オン・パレードの中で、ひとりデ・ロス・アンヘレスは素朴だった。地味にさえ感じられた。大学卒業後、ひょんなことからスペイン歌曲と出会い、今度は「教科書」のようにデ・ロス・アンヘレスの歌を聴いた。LPを片っ端から買い、発音から節回しまで、一生懸命真似を試みる。初めて外国語の歌というものを習い始めた時から、新しい曲はそうやって勉強するのが常だった。しかし彼女の歌は真似できるものではなかった。テクニック云々の話ではない。彼女の歌は、いつも「己の言葉で語っている」のだ。しかも限りなく自然体で。ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスの歌はヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスの心、そして魂。誰もその真似をすることなどできない。「歌うことは語ること」そんな彼女の歌に私は強い憧れを抱くようになった。と同時に、彼女の歌に自分とはまったく異次元の何かを感じていた。私には計り知れない何かだった
この日以来、レッスン室のドアを開けたらまず壁の写真を見上げる、これが習慣になった。M先生と一緒にニッコリと微笑むヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレス。しかし、私にとって彼女が雲上人であることに変わりはなかった
(つづく)
以上は、日西翻訳研究塾のメールマガジン『塾maga2009年11月号(No.109)』に掲載されたものです |
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