谷 めぐみ の 部 屋
 


 

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Hola Barccelona
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スペイン歌曲の歌い手

「谷 めぐみ」の歌修行 "Hola! バルセロナ" - その26 -

¡Hola! バルセロナ(26)
翌日スペイン語学校へ行くと、ミゲルが真剣な顔で言った「金曜日にパーティーがある。必ず来るんだ。来ないと大変なことになる」「大変なことって?」「それは来れば分かる。とにかく絶対に来るんだ」お調子者のアントニオの言葉なら聞き流して終わりだが、一見二宮金次郎風?のミゲルがこんなことを言うのは変だ。何か事情があるに違いない…。私は出席を約束した
「その日は大学の友達と約束があるからダメ」エレナにあっさりふられ、当日私はひとりで出かけた。要はクリスマス・パーティーである。今も昔も私はパーティーの類が苦手だ。しかもこの時は、授業をずっと休んでいたので誰も知り合いがいない。ミゲルは「Hola!」と挨拶しただけで、あとは知らん顔。皆と飲んだり食べたりしている。「何が何でも来い」と言われた理由がさっぱり分からない。つまらない。退屈だった。もう帰ろうか…と思った頃、ゲームが始まった。ミゲルが向かい側の女子にボールをポーンと放る。ボールは何重にも紙に包まれているらしい。彼女が紙を一枚剥がし、そこに書かれたメッセージを読み上げる「赤いセーターを着た人!」そして赤いセーターの青年にボールを放る。青年が紙を剥がすと今度は「会場で一番背の高い人!」青年はアントニオにボールを放る。ボールを受け取ったアントニオが紙を剥がすと今度は「○△の人!」…。この要領でボールは手から手へ次々と放られていく。最後のメッセージに当たった人は罰ゲームを課せられるそうな。ボールがかなり小さくなったところで出たメッセージは「黒ブチ眼鏡をかけた人!」ボールを受け取ったミゲルは紙を剥がし、おもむろにメッセージを読み上げた「歌の上手い人!」そしてポーンと私にボールを放ってよこした。受け取って紙を剥がそうとすると…アレッ!もう無い。最後のメッセージだ。「Canta!Canta!」皆が一斉に手を叩きだした。ミゲルがウインクしている。やっと分かった。私に歌わせようという計画だったのだ。誰かが「日本語で歌って!」と叫ぶ。アントニオは「No!メグミは俺の生徒だ。スペイン語がものすごく上達した。その証明にスペイン語で歌うべきだ」と威張る。「エーッ!あの子がcantante?ありえな〜い」と大袈裟に肩をすくめて笑う奴もいる。大騒ぎだ。では、と、私はクリスマスを祝い、『Noche de luz, Noche de paz(聖夜)』をスペイン語と日本語で歌った。一瞬の静寂、そして、ブラボー!ヒューヒュー!キャアキャア!また大騒ぎになった。私を“自慢の教え子”に仕立て上げたアントニオは鼻高々、上機嫌だ。秘密作戦を完遂したセニョール二宮金次郎ミゲルは目をクリクリさせている。彼はいい人だった。「18歳に戻りたい」が口ぐせだった。ある時「メグミ、何歳に戻りたい?」と聞くので「戻る?とんでもない!早く40歳になりたい」と答えたらビックリ仰天、それこそ目をクリクリさせていた。それにしても、何故いつも彼のジーンズは丈がちょっぴり短めだったのだろう?しかも、極めてカジュアルなそのスタイルに、何故いつもフォーマルな黒革靴を履いていたのだろう…?
クリスマス前、日本の知人から手紙が届いた。スペインへ行くので会いたい、とのこと。M先生のレッスンも休暇に入る。私は初のひとり旅を決行することにした。マドリードに住む友子先生のお弟子さんがピソに滞在させてくれるという。「仕事で迎えに行けない。地下鉄に乗って自分で来てください」と彼女から手紙が届いた。もう怖くはなかった。かつての壇オーナーの教え通り、この国に住むからには、自分のことは自分でしなければならないのだ。夜に寝台特急でバルセロナを出発、我ながらよく眠り、翌朝、無事到着した。…ここがマドリード!
(つづく)
  以上は、日西翻訳通訳研究塾のメールマガジン『塾maga2010年11月号(No.121)』に掲載されたものです