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Hola Barccelona
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スペイン歌曲の歌い手
「谷 めぐみ」の歌修行 "Hola! バルセロナ"
- その49 -
¡Hola! バルセロナ(49)
奥様と私は空港のカフェテリアでコーヒーを飲み、街で買い物をして、M先生のお宅に帰った。途中で電話を入れてあったので、父上も母上も息子さんも「おかえり」と、まるで朝に出かけた家族が夕方に帰って来たかのように迎えてくれた。母上特製のヨーグルトソースが添えられたサラダと具沢山のスープで夕食をいただいていると、電話が鳴った。奥様が悪戯っ子のように目をクリクリさせながら受話器を取る。M先生だ。「メグミは無事に帰国したか、ですって?ウフフ。彼女はまだバルセロナにいるわ。しかも、どこにいると思う?ここ、わが家にいるのよ」奥様が楽しそうに一部始終を説明している。「明日あなたの飛行機が着くのは〇時よね?メグミの飛行機は△時だからちょうどいい!空港で会いましょう。ちょっと待って」受話器が私に回ってきた。「¡Hola!メグミ。今夜はゆっくり休むといい。Hasta mañana」「Gracias. Hasta mañana」Hasta mañana〜また明日。嬉しいなぁ。M先生ともう一度、この挨拶を交わせるとは夢にも思わなかった。「メグミ、どこで寝たい?」電話が済むと、奥様が私に尋ねた。「お客様用の寝室もいいけれど、レッスン室のソファはベッドにして使えるの。もしもレッスン室がよければ、それもOKよ」思い出がいっぱいに詰まったあの部屋で眠れるなんて!「日本の人は夜にお風呂に入るのでしょう?私たちは朝にシャワーを浴びるから、今夜バスルームは貴女が独占!どうぞ使ってちょうだい」この際だ。何もかもお言葉に甘えることにした。長い一日の夜が更けた。「おやすみなさい」挨拶をして、レッスン室の大きな楽譜棚とピアノの間にしつらえられたソファベッドに横になる。レッスンに、『日本民謡集』の仕事に、と、通いつめたこの部屋。M先生の魔法の指で優しい音を奏でてくれたピアノ、膨大な数の楽譜や本、壁にはご家族の写真。ヴィクトリア・デ・ロス・アンへレスとM先生の演奏会の写真がかかっていた場所は空いたままになっている。あの貴重な写真は今、私のスーツケースの中に大切に仕舞い込まれているのだ。昼間の空港での騒ぎが遠い出来事に思えた。それにしても、神様は粋なご褒美をくださったものだ…
(つづく)
以上は、日西翻訳通訳研究塾のメールマガジン『塾maga2013年02月号(No.147)』に掲載されたものです |
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