e-添削入口 受講料 添削例 申込み e-Mail FQA
システム コース 無料レベル・チェック 講師紹介 通学塾 CASA

スペイン語文法 番外編 (第一編)

馬耳東風 (第二編) スペインの慣用句 (第三編) マヤ暦のページ


===========================================
Monólogo de un pasota == Serie II -08 ==
===========================================

『馬耳東風』 第二編 (スペインの政経社編) 第8話

『スペインの治安』 (その1)

  1999年には35.5万人の日本人がスペインを訪れ、日本人観光客のスペイン指向は年々増加し続けている。21世紀に入ってからのデータはまだ入手していないが、この不況時の日本の状態ではまだ40万人を超えていないかもしれない。いずれにしても、40万の大台に乗せるのも時間の問題だろう。スペイン関係者の一人としては、一人でも多くの日本人がスペインを知り、スペインと関わりを持つと言うのは嬉しい限りだ。もっとも、その訪問先のスペインで様々な災難に遭ったという話をよく耳にするのは誠に残念でならない。そこで、今回からこの問題を取り上げてみようと思う。

  この治安悪化の問題は、観光立国スペインにとって実に由々しき現実だ。ただ、スペインが現在直面している治安の悪化は、観光の側面からのみ問題なのではない。また、その原因をETAによるテロにのみ見いだそうとするにも少々無理がありそうだ。ようするに、現在のスペインでは、ETAのテロ問題(対処策に関しては次のテーマにしたいと考えている)に加え、総体的な治安の悪化が問題となっているわけだ。それは政治が悪いからなのだろうか、もしそうだとすれば、どこにその政治的問題が隠されているのだろうか?

  さて、そのスペイン自体の政治問題を含んだ治安問題を考察する前に、まずは我々日本人側に問題はないのかを見ていきたい。筆者も日本人の一人ではあるが、どうも日本人というのは、何かが起これば、必ず、まず「自分にも何か非はないか」と考え込んでしまう傾向にあるようだ。このような加害者?被害者?意識というか、人の振り見て我が振り治し、まずは自分の方から正そうとする姿勢を持っているのは、我々日本人だけなのだろうか。それとも、これは先の戦争での敗北が生んだ一種の後遺症なのだろうか。もしそうだとすれば、現在の世界平和の鍵は、いつ『あの国が敗戦者になるか』、にかかっていると言えなくはない。あの国が敗戦国になれば、あの国も我々日本人のように、『仕返し』を考える前に、まずは、自分に非があるのではないかと考え、『復讐の復讐』で何が得られるかを復習するかも知れない。

  ちょっとばかり道を「外して」しまったが、本題に入ろう。驚くべきことに、1999年に全世界で発生した日本人観光客に対する強盗被害のうち30%(??)がスペインで発生している。この事実は何をいわんとしているのだろうか?そこで、次の二つのことを考えてみよう。一つは、日本人が標的化されているのではないか。そして、もう一つは、スペイン自体の治安の悪化だ。そこで、まずは、何故日本人が標的にされるのかを考えてみる必要があるのではないか、というのが、筆者の元々の意図だ。

  周囲にしっかりと気を配り、安全を見極め、注意しながら歩いていれば、「敵もプロ」だから、用心深そうな相手をそう易々と襲ったりはしないはずだ。確かに、観光に行ったのだから、色々と『キョロキョロ』周囲を見たい気持ちも理解できる。「ここで一つ記念写真でも」、あるいは、「これは写真に収めなければ、と鞄を地面に置いて撮影に熱中する」気持ちも分からないではない。もっとも、「いや、十分に注意はしていた」という被害者もいるかもしれないし、「こちらにはまったくの非はない。突然襲われた」という人もいるかも知れない。しかし、それは被害者側の言い分であって、本当に果たしてそうだったのだろうか?本当に「スキ」はなかったのだろうか?夜中に一人で歩いたりしなかったのだろうか?無論、雑踏の中でのひったくりやスリ、といったケースもあるだろう。しかしながら、大勢の人が行き来する繁華街で、何故日本人であるあなただけが狙われたのだろう?もちろん、「こちらにまったく非はない。盗みを働くヤツが最も悪い」と主張する人はたくさんいるだろう。

  「自分がスペインで強盗にあったのは、スペイン人やスペイン側に原因があり、自分にはまったく非がない。だからスペインには金輪際行かない。スペイン人もスペインもすべて嫌いだ」として、スペインのみを加害者扱いする。そして、こうした感情はややもするとエスカレートする傾向にあるので、挙げ句の果ては、尾ひれを付けて喧伝して歩き、自分が被ったことに対する報復のつもりでスペイン攻撃をして憂さを晴らす。強盗にあい、金を巻き上げられた上にケガまでさせられ、楽しいはずの観光旅行もそこそこに、日本に帰国せざるを得なかった。だから報復する。ちょっとまてよ?この構図、最近どこかで見たような気がしませんか?

  2001年9月11日のN.Y.での同時多発テロ。確かに許される行為ではない。「多くのアメリカ人『も』犠牲になった。だからこそ、このテロ根絶を理由に善良な人々までをも巻き込み、「敵国」を攻撃する」と言う構図。ところが、その言い分は本当に正しいのだろうか?過去に自分がしたことをすべて棚に上げ、「世界で唯一の被害者は我々だ」とばかりに報復に走って良いのだろうか。今でこそ被害者然としているあの国の過去には様々な「黒い霧」がたちこめている。特に、我々スペイン語を学ぶものにとって、忘れてはならないことが、その中には一つある。28年前の同じ9月11日。そう、1973年9月11日。彼らは『あの国で』何をしたのか?28年も前のことだから、あれはもう時効なのか?彼らの手先となり、自国民を恐怖のどん底に陥れた張本人、現在、年老いて病にも悩まされているらしい、そう、あの将軍は、いまだに健在で、尚かつ裕福な生活を温々と続けている。それでももう『あれは』時効なのか?N.Y.での同時多発テロで亡くなった人々の10倍もの数の人々が、『あの国で起こったあの日の事件以来』、虫けらのように殺され、さらには、未だにその遺体さえも発見されていない現実があってもなのか?そして、それらをすべて忘れ去り、「世界で唯一の被害者は我々だ」とどうして言う権利があるのだろう?

  スペインの治安悪化をテーマに書き始めたはずが、何故か、我々日本人の国民性批判(反省)に始まり、その後、少々感情的に別の方向に向かって走ってしまったことをお許し願いたい。したがって、気を静めるためにも、今回はこの辺でキーボードをたたくのをやめることにする。(...続く)(文責:ancla)
 
  以上は、本塾のメールマガジン『e-yakuニュースNo.23(2002年9月末号発行)』に掲載されたものです