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スペイン語文法 番外編 (第一編)

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Monólogo de un pasota == Serie II -09 ==
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『馬耳東風』 第二編 (スペインの政経社編) 第9話

『スペインの治安』 (その2)

  さて、前回は、スペインの治安悪化の実体を考察するはずが、妙な方向に進みかけてしまい、長々と書き綴ってしまい、あまりにも分量が多くなり、そのお陰で別のコーナーをお休みにしてしまったが、本題に話を戻し、今回は、まず日本側の問題を片づけ、それからスペインの問題に入ろう。

  我々日本人は、あまりにも、簡単に人を信用し、不用心なのではないだろうか。人を信用するのはけっして悪いことではないが、世の中には色々な人がいる。けっして悪い人ではなくても、生活に困って盗みを働かざるを得ない人だっているだろう。外国に行って、そこに住んでいる人をすべて疑ってかかれ、と言っているのではない。これは、自国にいる場合でも同じことだ。つねに注意を払いスキを見せないでいるにこしたことはない。にもかかわらず、日本人は、何故か外国(地元以外の場所)では自分を失い、普段を失い、羽目を外す(良い意味でも悪い意味でも)傾向にある。つまり、一言で言えば、我々は『お人好し』なのだ。この性格が被害の要因にはなっていないだろうか?加害者には確かに『プロ』が多い。しかし、そうでない人たちもいる。あまりにも無防備なお人好しの観光客(この場合日本人の)を目にし、つい出来心で盗みを働いてしまうこともあるかもしれない。この場合は、被害者にも責任があると言われても仕方がない。

  スペイン語独特の表現に、自分がコップを落としてしまった時などに発する言葉で『Se me cayó el vaso』があるが、これを直訳すると、この文での主語はコップだから、「コップが私に(私を介して)落ちた」ということになる。これは、『私はけっしてコップを落としたりはしていない。落ちた(caerseした)のはあくまでもコップ自身であって、私は悪くない』という、加害者自認拒否の精神にのっとった表現だ。これに従うと、『Se me robó la cartera』なる文章も成立しそうだが、『財布が私を介して盗んだ』となるので、これはもう日本語としても、当然スペイン語でも成立しない。動詞『caer』は自動詞であって、『robar』は他動詞だからだ。したがって、いくら日本人側に非があったとしても、盗人側はこの表現をできないわけだ。とはいえ、言葉は日々変化し、生きているので、お人好しの日本人観光客があまりにも無防備だったことが原因で、したくもなかった盗みを働くことになったその理由を述べる表現(言い訳)に相当するだろうこの『Se me robó la cartera』をスペイン語に誕生させてしまわないようにしたい。

  スペインの治安の悪さに対しては、フランキスタ(1975年までスペインを独裁統治したフランコ将軍の支持者、もしくは、その彼を懐かしむ人々のこと)たちが最も主張するところだ。いや、フランキスタならずも、フランコ時代のスペインを知っている日本人なら、口をそろえて当時を懐かしんで言う。「あの頃は、女性が一人で夜中に町を歩いていても安全だった」と。確かにそれは事実かもしれない。しかし、その「代償は何だったのか」とか、「誰がその代償を払っていたのか」などと考える人はまずいないだろう。『自己の意見をも主張する自由のない閉塞的な独裁社会が生み出す治安の良さ』と、『民主主義社会の中での自由をはき違えることで治安が悪化してしまった社会』と、読者はどちらを選ぶだろうか?いずれも困る。というのが筆者の率直な意見だ。

  さて、本題に戻ろう(とはいうものの余りスペースがない)。スペインの治安の悪化の内容を分析的に見てみると、『けっして観光客目当ての強盗だけが増えているのではなく、犯罪の発生件数自体が急激に伸びている』というのが、スペインの現実のようだ。また、警察官の数が減少していることも注目に値する。そこで、まず犯罪数の急増について考えてみようと考え、色々と資料を集めだしたが、以下のような問題にぶつかってしまった。それは、他でもない、統計の不一致である。警察を管轄する内務省(Ministerio de Interior)の年次報告書と、検察庁(Fiscalía General)の出している統計の内容がまったく違うのだ。

  統計の違いと言えば、以前から、雇用庁(Instituto Nacional de Empleo)が出す失業率と、統計庁(Instituto Nacional de Estadística)の失業率の乖離があまりにも有名だが、ここにも同じようなケースがあったのかと、あらためて頭を抱えさせらせてしまった。まず、内務省の統計では、2000年の犯罪発生件数は1,789,990件だ。この数値は、統計局の数値と『ほぼ』一致する。しかし、検察庁の数字では、4,192,023件と、何と倍以上の開きがある。これはもう乖離などという代物ではなく、雇用庁と統計庁の失業率の差も影を潜めてしまうほどだ。事実、野党の第1党である社会労働党は、内務省と検察庁の統計を照合し、一本化させるための専門機関の創設を国会で訴えている。(...続く)(文責:ancla)
 
  以上は、本塾のメールマガジン『e-yakuニュースNo.24(2002年10月末号発行)』に掲載されたものです