2011年春。何の前ぶれもなく、すべてがこれまでとは違う時の流れを刻みはじめました。戸惑い、立ちすくみ、それでも、と、懸命に前を向く日々…。音楽界では外国人演奏家の公演キャンセルが相次ぎましたが、まだ混乱の続くさなか、四月初めにプラシド・ドミンゴが来日し、各地で円熟の歌声を聴かせてくれました。アンコールで彼が歌った『ふるさと』に、私のみならず多くの方々が深い人間愛、国境を越えた絆を感じ、心慰められたことでしょう。やがて東北の地にも遅い春が訪れ、美しい桜が咲きました。薄紅色の花びらをまとい、悠然と、それでいて、どこか儚げに立つ満開の桜…。生きて支えあう者も、この世では二度と会えない人も、あの空も、あの海も、あの大地も、すべてが安らかでありますように。心からそう願わずにはいられませんでした。
この忘れられない年のリサイタルにあたり、プログラム前半は、祈りの歌を捧げさせていただきます。後半は、今年生誕110年を迎えたホアキン・ロドリーゴの作品でまとめました。ギター・コンチェルト『アランフェス協奏曲』で有名なロドリーゴですが、実は、彼は、歌曲の分野にも多くの作品を残しています。黄金世紀の歌曲を基にした作品、巷の人情の機微を粋に仕上げた小唄、日本ではほとんど聴く機会のないオリジナル歌曲、そして、かのギター協奏曲第二楽章の美しいテーマ「ヴォカリーズによる〜わが心のアランフェス」など、個性豊かな曲を選びました。リサイタルの三日後、11月22日がマエストロ110回目のお誕生日に当たります。記念の年、その音楽の魅力を存分にお楽しみください。
リサイタル開催そのものが危ぶまれた時期もありました。こうしていつものようにご案内させていただけることに感謝の思いでいっぱいです。
晩秋の午後、たくさんの方のお出かけを心よりお待ち申し上げております。 |